映画『アス』 解説と考察

制作年2019年
制作国アメリカ
監督ジョーダン・ピール
主な出演者   ルピタ・ニョンゴ
ウィンストン・デューク  
エリザベス・モス
ティム・ハイデッカー
上映時間116分
総合評価9/10

1.作品概要

黒人の青年が白人の恋人宅で巻き込まれる恐怖を描いた『ゲット・アウト』(2017)のジョーダン・ピール監督作品。

前作『ゲット・アウト』の大ヒットを受け、2作目は振るわないのでは?というジンクスが懸念されていましたが、本作は米映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」で94%という大絶賛をうけ、興行的にも前作を上回る数字を残しました。

2.あらすじ

1986年、少女アデレード(ルピタ・ニョンゴ)は、家族でカリフォルニア州サンタクルーズの遊園地を訪れていました。アデレードは父の目を盗み、一人で園内を散策していると「ビジョン・クエスト」という不気味なミラーハウスを見つけます。

吸い込まれるように館内に入った彼女はそこで自分そっくりの少女を見つけるのでした。

その事がトラウマとなり彼女は失語症になってしまいます。


大人になったアデレードは失語症を克服し、ゲイブ(ウィンストン・デューク)という男性と結婚し、娘のゾーラと息子のジェイソンと幸せに暮らしていました。そして彼らは夏休みを過ごすため、アデレードが幼少期に暮らしていたサンタクルーズの家を訪れます。

しかしそこで不気味な偶然が重なり、アデレードの幼少期のトラウマが呼び起されます。

すると、彼女たちの前に自分たちそっくりの家族が現れるのでした。

3.登場人物/キャスト

アデレード・ウィルソン (ルピタ・ニョンゴ)

Us (2019) (imdb.com)

幼少期に自身のドッペルゲンガーに出会ったトラウマを抱える女性。

家族の前に現れた分身と闘うが、作品終盤では彼女の意外な事実が明らかになる。

アデレードを演じたルピタ・ニョンゴ『それでも夜は明ける』(2013)でアカデミー賞助演女優賞を受賞。『ブラックパンサー』(2018)では国王に支える女スパイのナキアを演じたケニアにルーツを持つ女優。


ガブリエル・“ゲイブ”・ウィルソン(ウィンストン・デューク)

Us (2019) (imdb.com)

アデレードの夫。ジョーク好きで年頃の娘から若干ウザがられている。

ウィンストン・デュークは『ブラックパンサー』(2018)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)で国王のライバルであるエムバクを演じている。


Us (2019) (imdb.com)

ゾーラ・ウィルソン(シャハディ・ライト・ジョセフ)/右:スマホをいじってばかりでひねくれ屋だが、何だかんだ家族を大切に思っている。実写版『ライオンキング』(2019)ではナラの声優を演じた。

ジェイソン・ウィルソン(エヴァン・アレックス)/左:ゾーラの弟。いたずら好きな性格。いつもお面をかぶっている。

4.作品解説 ※ネタバレあり

・分身の正体について

突如、アデレードたちの前に現れた分身(ドッペルゲンガー)達。

ゾーラにそっくりのレッドは「自分たちは影であり地下で虐げられてきた」しゃがれた声で主張します。レッドの傍らにはゲイブに似たエイブラハム、ゾーラに似たアンブラ、ジェイソンに似たプルートーが言葉を発さずにうめき声を漏らしています。

凶器として植木ばさみを持つ彼らは何者なのでしょうか。(レッドだけ言葉を話せるのはラストの伏線になっています)

『アス』2020.2.21[Fri] Blu-ray&DVD RELEASE|NBCユニバーサル・エンターテイメント (nbcuni.co.jp)

彼らの正体は政府が秘密裏に作成したテザートと呼ばれるクローン人間でした。政府はこのクローンを使い人々を操ろうとしますが、この計画は途中で中止となります。

計画の中止により長年地下に放置されたクローンたちですが、レッドはある目的を持ち地下のクローンたちを扇動し地上の人々を殺し始めるのでした。

それは本物の人間を殺し、その立場を奪う事でした。

・アデレードの正体について

物語終盤でアデレード自身がクローンであるという驚愕の事実が発覚します。この事実は衝撃的でしたが、作品を振り返るとその事が示唆される伏線が散りばめられていました。

  • 他のクローンに言語能力がない中、レッドだけが言葉を話す事が出来た
  • アデレードが外の不審者を見つけた瞬間に取り乱し、直ぐに警察を呼ぼうとした(=本物の自分が復讐に来たことをいち早く察した)
  • (同じクローンの)アンブラとプルートの死に際に神妙な表情を見せた

幼少期にミラーハウスで自身のドッペルゲンガーを見たアデレードはその事がトラウマで失語症になったと描かれていましたが、実はアデレードはその日見たドッペルゲンガー(クローン)に襲われ、地下に連れ去られていたのでした。

US Trailer (2019) – YouTube

本物のアデレードは地下に捕らわれ、彼女のクローンが地上に出て生活を送っていたのです。

地上に出たクローンのアデレードは人間の言葉を学習するまで声を発する事ができず、ショックによる失語症と診断されたという事です。

終盤でジェイソンを追い、地下にやって来たアデレードに対し、レッドが「空の下で生きるのはどんな気分だ」と感情的な事を言っていた事からも自分を地下に追いやったクローンに対し恨みを持ち続けていた事が伺えます。

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しかし結局レッドはアデレードとの死闘の末、殺されてしまいます。

地下を脱出したアデレードは家族の待つ車に戻ります。人間の死体が山積みとなり、クローンが蔓延る地上を走る車の中で彼女はようやく自分自身がクローンであると気付くのでした。

・ジェイソンについて考察

アデレードの息子であるジェイソンですが、彼のクローン説がネットを賑わせています。

この説は、ジェイソンが去年まで出来たライターのマジックができなくなっていた事や、序盤の車内でのシーンでアデレードと同様、LUNiZの『I Got 5 On It』(マリファナを5ドルで売ってくれ~)のビートに上手くノレていない様子から考察されています。

果たして、ジェイソンは既にクローンと入れ替わっていたのでしょうか?

Us (2019) (imdb.com)

非常におもしろい考察だと思いますが、個人的には答えはNOだと思います。

入れ替わるタイミングがあるとすれば、ビーチでジェイソンが一人でミラーハウスに近づいたあの場面だと思いますが、そうであると顔のヤケドはともかく、4足歩行であれだけ早く動き回る身体能力を短時間で取得できるとは思えません。

しかし、ジェイソンとプルートの動きが異様にシンクロしていたり、ラストシーンではアデレードがクローンである事を察しているような表情を見せたりと、彼の存在が非常に意味ありげに描かれてるのも事実です。

彼はクローンに共鳴する何か特別な力を得ていたのかもしれません。

・ウサギの意味とは

ミラーハウスの地下では無数のウサギが存在しており、クローン達はそのウサギを生で食べさせられていたと言います。

食用目的ならニワトリでも良いはずですが、なぜウサギが作中で用いられたのでしょうか。

それはウサギが交尾をするとほぼ100%の確率で妊娠する非常に繁殖能力の高い生物であるからと考えられます。個体を増やし続けるクローンを暗示させるものがありますね。

・エレミヤ書11章11節の意味とは

遊園地内で男が”エレミヤ書11章11節”と書かれたプラカードを掲げていました。

エレミヤ書ではエレミヤという人物が「唯一神ヤハウェに従わないイスラエル国民がバビロンによって滅ぼされる」事を予言しており、最終章では彼の予言通り、民はバビロンに捕囚される結末となっています。

それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。

旧約聖書 エレミヤ書11章11節より

地上の人間が地下のクローンに滅ぼされる悲劇を示唆しているように感じられますね。

また、本作では幼少期のアデレードが父親にねだる射撃の景品(マイケル・ジャクソンのThrillerのTシャツ)の番号が11番であったり、時計の時刻が11:11であったりと、やたらに「11」という数字が登場します。

これが「左右対象=クローン」を示唆しているのは言わずもがなですね。

感想

『ゲット・アウト』に続くジョーダン・ピール監督作品。本作も非常に素晴らしい作品でした。

地上で生きる人間がいる一方、地下で生きるクローンが虐げられ苦しんでいる事が強調されています。恩恵を享受する人間とそうでない人間が存在するが誰もその事に気づいていない。そんな社会的メッセージを感じる作品でもありました。

物語終盤ではアデレードがクローンであるというなかなか衝撃的な事実が明るみになるのですが、よくよく振り返ると、そのような伏線が非常に丁寧かつ予想できない程度に散りばめられていましたね。

『ゲット・アウト』の時もそうでしたが、このような演出にジョーダン・ピール監督の才能を感じずにはいられません。

又、アデレードを演じたルピタ・ニョンゴも素晴らしかったです。アデレードとレッドを一人二役で演じているのですが、最初は異なる俳優が演じていると思う程にその雰囲気は異なるものでした。地上で幸せを享受し生きていたアデレードに対し、地下で暮らしていたレッドはその一挙一動が不気味で、そのしゃがれた声は不気味さと狂気と哀しさが混在する印象的なものでした。

実際に自我を持つ人間が地下に幽閉され、自分の代わりにクローンが地上で生活していると考えると発狂ものですね。

それにしてもルピタ・ニョンゴさん美しいです。

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