ネタバレ・解説『ジョーカー』 何がアーサーを変えたのか 妄想説についても

制作年トッド・フィリップス
制作国アメリカ
監督トッド・フィリップス
主な出演者ホアキン・フェニックス
ロバート・デ・ニーロ
サジ・ビーツ
フランセス・コンロイ
ブレット・カレン
上映時間122分
総合評価9/10

作品概要

「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸にコメディアンを夢見る、孤独だが心優しいアーサー。都会の片隅でピエロメイクの大道芸人をしながら母を助け、同じアパートに住むソフィーに秘かな好意を抱いている。笑いのある人生は素晴らしいと信じ、ドン底から抜け出そうともがくアーサーはなぜ、狂気あふれる<悪のカリスマ>ジョーカーに変貌したのか?切なくも衝撃の真実が明かされる!

映画『ジョーカー』ブルーレイ&DVDリリース (warnerbros.co.jp)

監督・キャスト

トッド・フィリップス(監督)

映画『ジョーカー』ブルーレイ&DVDリリース (warnerbros.co.jp)

コメディ映画『ロード・トリップ』(2000)、『アダルト♂スクール』(2003)、『デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜』(2010)で監督を務める。

日本で知名度の高い代表作に『ハングオーバー』シリーズがある。

ブラットリー・クーパーが監督・主演を務めた『アリー/ スター誕生』(2018)では製作担当を務めた。

ホアキン・フェニックス(アーサー・フレック役)

JOKER – Teaser Trailer – Now Playing In Theaters – YouTube

数々の賞を受賞している個性派・実力派俳優。

兄は早逝した伝説の俳優リバー・フェニックス

リドリー・スコット監督の『グラディエーター』(2000)や『ヴィレッジ』(2004)、『her/世界でひとつの彼女』(2013)等、数多くの作品に出演している。

ロバート・デ・ニーロ(マレー・フランクリン役)

Joker (2019) (imdb.com)

徹底した役作り(デニーロアプローチ)を行う事で知られる大物俳優。

ブライアン・デ・パルマ監督やマーティン・スコセッシ監督とコンビを組んだ作品が多い。

本作のアーサー・フレック(ジョーカー)は、デ・ニーロが『タクシードライバー』(1976)で演じたトラヴィス・ビックルと『キング・オブ・コメディ』(1982)で演じたルパート・パプキンからインスピレーションを得たキャラクターである。

ザジー・ビーツ(ソフィー役)

JOKER – Teaser Trailer – Now Playing In Theaters – YouTube

テレビドラマ『アトランタ』(2016-2018)への出演で注目を集める。

日本では『デッドプール2』(2018)のドミノ役で有名。

フランセス・コンロイ(ペニー・フレック役)

映画『ジョーカー』より

これまでブロードウェーや多くのテレビドラマに出演している。

2004年にはハル・ベリー『キャットウーマン』にも出演しており、バッドマン関連作品には2作目である。

善人アーサーが狂気に走るまで

善人であるアーサー・フレックはなぜ狂気の象徴「ジョーカー」になったのか。

彼の抱える病気や生い立ちから考察していきたいと思います。

アーサーの抱える障害とは

アーサー(ホアキン・フェニックス)はトゥレット症候群を患っており、状況を問わず発作的に笑い出してしまう障害を抱えています。

ピエロ派遣会社の安給料で認知症気味の母親ペニー(フランセス・コンロイ)を養っているアーサーは経済的にひどく困窮しており、身体はやせ細っています。

自分の障害や母の介護を抱える彼は貧困から抜け出せずに”社会の落伍者”という立場に甘んじるしかないのです。(誤字だらけのネタ帳を見る限り、まともな教育も受けていないのかもしれません)

そんな彼には尊敬するマレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)のような”コメディアン”になりたいという夢がありました。

しかし、優しいアーサーにはコメディアンの資質である”気の利いた皮肉”を言う事ができず、笑いのツボも一般人の感性から逸脱しています。彼がコメディアンとして成功できる可能性は皆無に近いのです。

それでも「どんな時も笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を信じ、アーサーは希望を捨てずにノートにネタを書き留め続けています。

社会の理不尽

そんな健気なアーサーですが、作中では様々な理不尽やトラブルを経験します。

  1. ピエロの恰好で楽器店の宣伝をしてたら不良グループに看板を奪われリンチされる
  2. 雇い主に職務放棄を疑われた挙句、看板の弁償代として減給される
  3. 小児病棟での仕事中に(同僚からもらった)護身用の銃を落としてしまい仕事をクビなる
  4. 持病が原因で地下鉄で酒に酔ったエリート証券マン3人にリンチを受ける
  5. その場で証券マン3人を射殺してしまう
  6. 社会福祉費用の削減により無料カウンセリングと薬の処方が受けられなくなる
  7. 母が富豪トーマス・ウェインに宛てた手紙から母が屋敷で働いていた時に彼と肉体関係を持っていた事と自分が彼の息子である可能性がある事を知る
  8. 母が脳卒中で倒れ入院する
  9. 真相をトーマス・ウェイン本人に確かめるも母は「精神異常者」だったと言われ、自分はペニーの息子ではなく”養子”であると告げられる
  10. 自分のスタンダップコメディの映像がマレーの番組で嘲笑のネタにされる

精神疾患のあるアーサーの妄想も含まれる(後述)ため、真相不明の出来事もあるのですが、これらの理不尽やトラブルはアーサーの精神を追い詰め、彼を狂気に掻き立てます。

JOKER – Teaser Trailer – Now Playing In Theaters – YouTube

アーサーを変えた決定的な出来事とは

様々な出来事の中でアーサーを狂気に走らせた”決定的な出来事”は何なのでしょう。

それは「地下鉄での殺人」と「マレーからの嘲笑」の間で、彼の思考に決定的な変化が起きたことだと考えられます。

<地下鉄での殺人と人々の共感>

地下鉄で大富豪トーマス・ウェインの会社に勤めるエリート証券マン3人からリンチを受けたアーサーは彼らを銃殺します。

人を殺した恐怖や罪悪感に動揺しその場から逃げ出すアーサーですが、次第にこれまでに経験したことのない高揚感を感じ始めます。

そしてこの事件は“富裕層に抗う貧困層”という形で報道され、貧困にあえぎ富裕層への反発を高めるゴッサム市民の共感を得ます。

ニュースでトーマス・ウェインが容疑者がピエロの恰好をしていた事を引き合いにし、殺人を指示する層を”落伍者のピエロ”と揶揄したことで富裕層と貧困層の軋轢は過熱し、大規模なデモに発展していきます。

<マレー・フランクリンの嘲笑>

脳卒中で倒れた母の入院先を訪れていた際、アーサーは自分がスタンダップコメディの舞台に立った時の映像がマレーのTVショーで流れている事に気づきます。

「信じられない!」と画面に食い入るアーサーですが、マレーは彼の拙いネタや振る舞いを揶揄し、笑いのネタにしていました。

その様子をアーサーは苦虫を噛み潰したような表情で眺めています。

その後、帰宅した彼はTVニュースでピエロの恰好をした市民が富裕層に対し激しいデモをする様子を目にします。映像を見た彼は満足げに笑みを浮かべるのでした。

「地下鉄の殺人事件」に対する市民の支持を知った際、アーサーはカウンセラーに「僕はずっと、自分が存在するのか分からなかった。でも僕はいる。世間も気づき始めた。」と語っています。

「人を笑わせたい」と願ってきたが、誰からも認められずに社会に見捨てられた。しかし、殺人という形で現れたアーサーの「社会への不満」は世間に認められたのです。

この2つの出来事を通じ、アーサーの価値観に大きな変化が起こっている事が分かります。

そしてアーカム州立病院で母親の診断記録を読んだ事で彼の精神は完全に崩壊します。

30年前の記録には母が「妄想性精神病」や「自己愛性人格障害」を患っていた事とトーマス・ウェインの言う通り、アーサーが実の息子でなく養子である事が記されていました。

ショックを受けたアーサーは発作を起こし、笑いながら泣き崩れるのでした。

Joker (2019) (imdb.com)

そして「人生は悲劇だと思っていた。だが分かった。僕の人生は喜劇だ」と悟り、入院中の母親を枕で窒息死させます。

ジョーカーの誕生

スタンダップコメディの映像が(ネタとして)話題となり、アーサーはマレー・フランクリンショーの出演のオファーを受けていました。

母を殺したアーサーは、家でひとりマレーのTVショー出演する際のシミュレーションを重ねます。

アーサーは「ノック、ノック」というギャグを番組で披露し、オチで自らの頭を拳銃で撃ち抜くという構想を持っていました。

髪を緑色に染め、ピエロメイクを施しスーツに着替えた彼は収録スタジオに向かいます。

Joker (2019) (imdb.com)

しかしアーサーは構想とは異なる動きを番組で見せます。

彼は証券マン3人を殺したのは自分であると告白したのです。スタジオはこの放送事故にざわつきますが、大物のマレーは動揺せず「殺人は悪だ」とアーサーを悟します。

これに反論するアーサーでしたが、マレーは「自らを憐れんで殺人の言い訳を並べているだけ」と彼を一蹴します。

激高したアーサーはその場で銃を取り出し、マレーを射殺してしまうのでした。

生放送されていた一部始終は富裕層に反感を持ちデモを行う市民の起爆剤となり、大規模な暴動を誘発しました。

護送されるアーサーはデモに揺れる街をパトカーから満足げに眺めますが、そこに暴徒が運転する救急車が突っ込みます。

パトカーから救出されたアーサーは暴徒から崇められ、恍惚とした表情で踊り狂うのでした。

ここに最凶のヴィラン”ジョーカー”は誕生したのです。

Joker (2019) (imdb.com)

ラストシーンの意味は すべてはアーサーの妄想か

本作に対する考察で「全てはアーサーの妄想」といったものがあります。

「妄想オチかよ!」と思ってしまうのですが、ラストシーンを観るとこの考察にはある程度信ぴょう性がある事に気づきます。

真っ白な部屋で精神鑑定を受けるアーサーが、カウンセラーを殺し精神病院を逃げ回るというシーンで本作は終わるのですが、この時アーサーの髪が黒髪に戻っているんですよね。

ここで「緑に染めたてたよね?」「いつまた捕まったんだ?」という疑問が浮かびます。

本作は妄想癖のあるアーサーの主観で進行するので、妄想と現実の区別がファジーに描かれています。100%妄想だと言い切れるのは「マレーの番組を観客席で視聴するシーン」と「隣人のソフィーと交際をする」描写だけだと思います。

  • 証券マンを殺した事
  • スタンダップコメディの舞台
  • ウェインの息子である事が暗示された母の手紙
  • トーマス・ウェインに会いに行った事
  • 母親を殺した事
  • 同僚のランドルを殺した事
  • マレーの番組への出演
  • マレーを殺した事

この辺りはアーサーの妄想である可能性があるのです。

確かに、コメディの舞台に立つにもオーディションがあるはず(アーサーが受かるはずがない)だし、大物のトーマス・ウェインに容易にアプローチできるのかと疑問に思われる点も多々あります。

この辺りの解釈は完全に視聴者に委ねられていますね。

個人的には、「証券マンの殺害」辺りでアーサーは逮捕され、精神病院に入れられていたのではと思います。あるいは、5~6発しか装弾できないリボルバータイプの銃で8~9発発砲している事から殺人自体も妄想で、数発発砲しただけの「殺人未遂」の容疑かもしれません。

感想 駄作でもあり傑作でもある 

仕方ないのですが、原作として善人で描かれているトーマス・ウェインが”汚い大人”として描かれている点が残念です。

幼少期のブルース・ウェイン(後のバットマン)の登場には盛り上がりましたが、冷静に考えるとジョーカー(アーサー)と年齢差がありすぎます。

また、「とにかくアーサーが不憫」です。ホアキン・フェニックスの演技が見事な過ぎるため、ジョーカーに感情移入してしまいました。

これはジョーカーの「狂ったヤバい奴」というヴィラン像を破壊するよろしくない感情です。

そのため、バットマンシリーズとして考えたら本作は駄作です。

但し、単体の「クライム映画」として捉えたら本作は大傑作の部類だと思います。

演出やBGMも素晴らしいのですが、「貧困や障害を抱えた社会の落第者」というセンシティブなテーマを正面からしっかり描いている作品であると思います。

この映画に対し、「誰しもがジョーカーになり得る」という感想を抱く方が多いですが、それ程に社会が抱える問題への風刺が効いている作品でもありました。

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