解説・感想『ジョジョ・ラビット』ロージーの活動やキャプテンKについても

制昨年   2020年
制作国アメリカ
監督タイカ・ワイティティ
主な出演者ローマン・グリフィン・デイビス 
タイカ・ワイティティ
スカーレット・ヨハンソン
サム・ロックウェル
上映時間109分
総合評価8/10

作品概要

「マイティ・ソー バトルロイヤル」のタイカ・ワイティティ監督が第2次世界大戦時のドイツに生きる人びとの姿を、ユーモアを交えて描き、第44回トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞した人間ドラマ。第2次世界大戦下のドイツに暮らす10歳のジョジョは、空想上の友だちであるアドルフの助けを借りながら、青少年集団「ヒトラーユーゲント」で、立派な兵士になるために奮闘する毎日を送っていた。しかし、訓練でウサギを殺すことができなかったジョジョは、教官から「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名をつけられ、仲間たちからもからかいの対象となってしまう。母親とふたりで暮らすジョジョは、ある日家の片隅に隠された小さな部屋に誰かがいることに気づいてしまう。それは母親がこっそりと匿っていたユダヤ人の少女だった。主人公のジョジョ役をローマン・グリフィン・デイビス、母親役をスカーレット・ヨハンソン、教官のクレツェンドルフ大尉役をサム・ロックウェルがそれぞれ演じ、俳優でもあるワイティティ監督が、ジョジョの空想の友だちであるアドルフ・ヒトラーに扮した。第92回アカデミー賞では作品賞ほか6部門でノミネートされ、脚色賞を受賞した。

ジョジョ・ラビット : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)

作品解説① ナチスに傾倒する臆病な少年とユダヤ人少女の出会い

※以下ネタバレを含みます

10歳のジョジョが傾倒するナチスのイデオロギー

軍服を身を纏った10歳のジョジョ・ベッツラーローマン・グリフィン・デイヴィス)は「国のため立派な兵士になれるか」と鏡の中で問答を繰り返します。

傍らにはタイカ・ワイティティ監督が自ら演じるジョジョのイマジナリーフレンド、アドルフ・ヒトラーがおり、彼を励まします。

JOJO RABBIT | Official Trailer [HD] | FOX Searchlight – YouTube

そしてジョジョは「ハイル・ヒトラー!」と叫びながら街に飛び出していきます。

第2次世界大戦中、ナチスドイツでは10歳から18歳までの青少年にヒトラーユーゲントへの加入を義務付けてました。そこで少年たちは訓練され、人種差別を含むナチスのイデオロギーを教育されるのです。

ジョジョもまた、そのような思想に触れ傾倒していきます。

「将来はナチスの親衛隊に入る!」「敵をたくさん殺すんだ!」と息を巻くジョジョですが、彼は実際にはウサギも殺せない気の弱い少年なのでした。

ユダヤ人のエルサとの出会い

ヒトラーユーゲントのユースキャンプで大けがを負い帰宅したジョジョは「これじゃあ親衛隊にはなれない…」と落ち込みます。

そんな彼を母親のロージースカーレット・ヨハンソン)は「あなたが生きてるだけでいい」と優しく抱きしめるのでした。

そんなある日、ジョジョは自宅で不審な物音を聞きます。

物音を辿ると亡くなった姉のインゲの部屋に辿り着きました。

壁に不審な隙間があるのを見つけ、壁を剥がすと中は小部屋になっていました。

恐る恐る小部屋を調べるジョジョはユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)を見つけます。母ロージーが彼女を匿っていたのでした。

JOJO RABBIT | Official Trailer [HD] | FOX Searchlight – YouTube

絶叫しながら逃げまどうジョジョは電話を見つめます。ユダヤ人は見つけ次第すぐに通報する事が義務付けられていたのです。

しかしエルサに「通報したらあなたの母親も協力者として処刑される」と脅され、通報する事はできませんでした。また、「私を見つけた事を母親に言わない事」と脅されたジョジョは八方塞がりになり、エルサの存在を黙認する事に。

ひとつ屋根の下、ナチスに傾倒する少年とユダヤ人少女が生活を共にするのでした。

ジョジョの思想の変化

ジョジョはユースキャンプの授業で「ユダヤ人は魚と交尾をするからとても臭い」「頭には角が、口には牙が生えている」と教えられていました。

ジョジョはそんなユダヤ人の生態を本にしようと、母親の留守の間にエルサのいる部屋に通い、差別的にユダヤ人に関する質問を繰り返します。

エルサは「ユダヤ人の頭に角が生えるのは21歳から」「ユダヤ人はコウモリのように天井からぶら下がり寝る」とでたらめを並べ応戦しますが、純粋なジョジョは全てを真に受け、懸命に内容をノートに書き留めるのでした。

インタビューを続けるうちに、エルサにネイサンという婚約者がいる事を知ります。

ジョジョはエルサをからかうため、ネイサンからの「偽造の手紙」を書きます。

そして「君と本当は結婚したくない。新しい彼女ができた」といった内容を彼女に読み聞かせるのでした。

手紙の朗読を聞いたエルサは無言で部屋に戻り涙を流します。

罪悪感を感じたジョジョは、慌てて偽造の手紙をもう一通書き、「やっぱり君と結婚したい」といった内容をエルサに読み聞かせるのでした。

実は婚約者のネイサンは結核で既に亡くなっており、手紙がでたらめである事をエルサは知っていました。エルサはジョジョのやさしさに微笑みます。

そんな日々を過ごすうちに、ジョジョの中の野蛮で愚かな「ユダヤ人像」は変わっていきます。

ドイツ人と何も変わらない人間である事の気づき始めたのです。

JOJO RABBIT | Official Trailer [HD] | FOX Searchlight – YouTube

そしていつしかエルサに恋心を抱き始めるのでした。

作品解説② 作中で描かれる反ナチ思考

1933年にヒトラー率いる国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)が与党となって以来、ドイツはナチス・ドイツと呼ばれる時代を迎えます。

この頃からナチ党に抵抗する運動・団体は存在し秘密裏に活動を行っていました。作中でも言及されていましたが、ヒトラーの暗殺計画も複数企てらておりました。

ナチ党は親衛隊やゲシュタポ(秘密警察)を使い、彼らを厳しく弾圧しました。

本作でもこの反ナチ運動とその弾圧が描かれています。

ジョジョの母親は何をしている人?

ジョジョの母親ロージーは反ナチの活動家です。

彼女が「ドイツを解放しよう」と書かれたビラを配っているシーンでその事は明らかになるのですが、物語序盤からロージーの思想を示唆する描写は多く描かれています。

彼女が処刑された反ナチ活動家の人々を見つめるシーンが象徴的ですね。

Jojo Rabbit (2019) (imdb.com)

首吊り状態の死体を見たジョジョは目を逸らしますが、ロージーは目を逸らさぬよう注意します。「彼ら何をしたの?」と尋ねるジョジョに対し「できる事をやったのよ」と答えます。

このシーンでの彼女の表情は「自分もいずれ殺される」と感じつつも、信念を貫こうとする覚悟を感じさせるものです。

結局、ロージーは作中で彼らと同じように処刑されます。

首を吊られたロージーを発見したジョジョは彼女の死体に抱きつきますが、その際に人間の目のように見える住宅の屋根の絵がインサートされます。

Jojo Rabbit (2019) (imdb.com)

これは彼女がマークされていた事を暗示していると考えられます。(ゲシュタポが彼女の家を訪ねた事からもその事実は明らかです)

また、物語に直接登場はしませんが、ジョジョの父ポールも反ナチス主義の活動を海外で行っていると考えられます。

クレンツェンドルフ大尉はナチスが嫌い?

ジョジョが参加したユースキャンプで指揮官を務める“キャプテンK”ことクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)。

JOJO RABBIT | Official Trailer [HD] | FOX Searchlight – YouTube

ケガが原因で前線を退いた後は子どものキャンプの責任者に甘んじています。

酒飲みで奔放な男という役柄ですが、大尉という立場から軍人としてはかなり有能な人物であると思われます。

しかし、大尉という立場である彼も反ナチス的思考を持っている人物だと考えられます。

その根拠となるのが彼がゲイである事です。

作中でクレンツェンドルフは部下のフィンケルとデキており、イチャつく様子も描かれています。

ナチス・ドイツでは同性愛はホロコーストの対象となっており、処刑の対象にすらなっていました。

ユースキャンプで目を輝かせる子どもたちに「(報道は嘘で)ドイツは敗色濃厚だ」と宣言する等、クレンツェンドルフはさほど愛国心を持っていない様子が描かれています。

彼は同性愛を迫害するナチス・ドイツに不満を持っていたのでしょう

ソ連がベルリンに侵攻した際、クレンツェンドルフとフィンケルは自らデザインした軍服と武器で闘うのですが、衣装にはピンクトライアングルが確認できます。これはホロコーストで収監された人間がつける識別胸章のうち、「男の同性愛者」を示すものです。

JOJO RABBIT | Official Trailer [HD] | FOX Searchlight – YouTube

彼はゲシュタポがジョジョの家を訪れた際は自転車で家まで駆けつけました。

ロージーと旧知の仲であった彼は彼女の反ナチ活動を知っていたため、ジョジョ達の身を案じたのでしょう。また、ゲシュタポの尋問に「自分はジョジョの姉」と主張するエルサの嘘を見破りながらも庇う場面も描かれています。

最終的にソ連軍に捕まった彼は同様に捕虜になったジョジョを逃がしたうえで処刑されます。

愛に溢れるクレンツェンドルフ大尉は作中でも屈指の人気を誇るカッコいいキャラクターですね。

感想 本作のテーマを考える

オープニングでThe Beatlesの『I Want To Hold Your Hand』のドイツ語版を背景に10歳の少年が「ヒトラー万歳!」と叫びながら街を駆け回る。

この”異様さ”により視聴者は作品に一気に引き込まれます。

ナチスやヒトラーをテーマに扱いながらもポップな雰囲気が漂う本作には押しつけがましい重苦しさを感じません。

作中に登場するドイツ兵やゲシュタポといったナチス思想を持つ人間もどこか人間味のあるように描かれています。

これについて、ワイティティ監督は以下のように語っています。

ワイティティ監督は「ドイツの兵士や人々の中にもファシズムに賛同していない人はたくさんいた、ということを、多くの人々は理解していないと僕は思う。この戦争以前に、彼らには普通の暮らしがあったということを知ることは大切だと思うんだ。多くの人々が間違った判断を下し、そこから抜け出せなかった。それに気づいたのは、戦争が終わる時だった。僕はただ、人間は人間だと示したかった。誰も生まれた時から人種差別主義者というわけじゃない。そんなのは野蛮な考えだ。だからこそ、子供たちをどう教育するかということが大事なんだ」と訴えていた。

『ジョジョ・ラビット』ナチスも人間的に描いたワケ…タイカ・ワイティティ監督が明かす:第92回アカデミー賞|シネマトゥデイ (cinematoday.jp)

作中にはドイツ人であっても反ナチ活動家のロージーや反ナチ的な思想を持つクレンツェンドルフ大尉も登場します。ユダヤ人について差別的な講義を行うラームもジョジョの家を訪れたゲシュタポも根っからの悪としては描かれておりません。

本作はナチスを軽々しく描きすぎているといった批判もあったようですが、ナチ思考自体でなくそれを生んだ戦争自体を批判している点に意義を感じました。

それはジョジョが自らの差別的思考から脱却し、イマジナリーフレンドのアドルフと決別するシーンにも象徴されているように感じます。

ひとりの少年の成長を通じた平和へのメッセージを感じました。

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