感想と解説『チョコレートドーナッツ』ゲイカップルとダウン症。マイノリティと人並みの幸福とは

制昨年2012年
制作国アメリカ
監督トラヴィス・ファイン
主な出演者アラン・カミング
ギャレット・ディラハント
アイザック・レイヴァ
上映時間97分
総合評価8/10

あらすじ

1979年のカリフォルニア。

歌手を志し、ダンサーとして働くゲイのルディ・ドナテロは客として訪れた検事局のポール・フラガーと交際を始める。

ルディの住む安アパートの隣には薬物中毒者の母とダウン症の少年マルコが住んでいた。

男と薬におぼれる母にネグレクトされた挙句、母が薬物所持で逮捕された事をきっかけにマルコは施設に隔離されてしまう。

「家に帰りたい」と施設を抜け出し夜道を彷徨うマルコを目にしたルディは彼の面倒をみていく事を決意。

ポールの協力を得ながらマルコの監護者となるのだった。

愛溢れるルディとポールとの生活で笑顔を手に入れるマルコであったが、ゲイのカップルに対する世間の目は冷ややかだった。

彼らの監護権を巡る裁判が始まり、やがてマルコのを失う事になるのであった…

キャスト

アラン・カミング

舞台『キャバレー』トニー賞 ミュージカル主演男優賞を獲得している実力派。

『007ゴールデンアイ』では裏切り者のオタク系プログラマーを、『マスク2』では災いの神ロキを演じています。

本作では貧しさや偏見に晒されながらも、ベッド・ミドラーのような歌手を夢みるゲイダンサーのルディを演じています。

マルコを守るため時に激しく体制に歯向かうルディには愛と力強さを感じます。

Any Day Now (2012) – Official Trailer [HD] – YouTube

アラン・カミングは自分がバイセクシャルであることを公言しており、1993年に女優のアラン・リオンと離婚後、2007年にはグラフィックアーティストの男性と結婚しています。

同性婚の認められるイギリスで式を挙げたアランは「いつの日かアメリカで同性婚が認められる事を願っている」とコメントをしましたが、2015年には全米で同性婚が認められました。

彼は市民権運動や性教育に関する活動を行い、多くの人道的な賞を獲得しています。

ギャレット・ディラハント

ブロードウェーやドラマを中心に活動後、コーエン兄弟『ノーカントリー』にて映画デビュー。

ジョゼフ・ゴードンブルース・ウィリス主演の『LOOPER/ルーパー』への出演でも知られています。

本作ではルディの恋人の弁護士役です。

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「世界を変える」という正義感と決意を持ち法律の世界に入ったが、ゲイである事を隠し、葛藤する難しい役柄を演じています。

アイザック・レイヴァ

ダウン症でありながらも、幼い頃にディズニー番組を観て以来、俳優を志していたアイザック。

母親の協力もあり、障害のある大人のための演劇学校パフォーミング・アーツ・スタジオ・ウェストに通った。

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本作の出演が決まった時は監督のトラヴィス・ファインの前で「夢がかないました」と感極まったそうです。

感想と解説(ネタバレを含みます)

ゲイを巡るアメリカ社会

本作は1979年のカリフォルニアが舞台。

かつてアメリカではソドミー法により同性愛自体が法律で禁止されていました。

これにより同性愛を違憲とされ、双方の同意があっても性交渉があった事が明らかにされると罰金刑や自由刑が科せられ、ゲイを理由とした解雇も公然と認められていました。

このソドミー法は1970年代以降に段階的に撤廃されていくのですが、ゲイである事を公表し公職に就いたハーヴェイ・ミルクがホモフォビア(同性愛嫌悪)に暗殺される事件(1978年)が起こる等、同性愛に対する風向きはシビアなものでした。

2015年にアメリカで同性婚が認めらる等、LGBTが市民権を得ており、多くの著名人がゲイをカミングアウトしています。

しかし当時の社会で自分がゲイであることをカミングアウトして生きていくことがどれだけ勇気がいる事だったか分かります。

現実に作中でルディとポールは同性愛者である事を理由に様々な試練に直面します。

ポールがルディに惹かれた理由

二人の出会いのきっかけはポールがルディの働くパブを訪れた事でした。

ステージ上で煌びやかに踊るルディにポールは魅了されます。

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その日のうちに車内で関係を持った二人はやがて交際を始めますが、ポールはルディのどこに惹かれたのでしょう。

同じ同性愛者というマイノリティの両者には対象的に描かれてる点があります。

ポールは同性愛者ですが、それを隠し生きています。

職場の女性に好意を持たれている描写もあり、そのような素振りを一切見せていないのでしょう。本当の自分を隠し社会で上手くやっているのです。

一方、ルディはゲイーバーのドラァグクイーン。

罵詈雑言を浴び社会的に虐げられても自分らしく生きています。

ある日ベッドで「君は凄い。君は何も恐れないんだ」とルディに囁くポール。

自分を偽った世界で生きていた彼にとって、ルディはとても強く魅力的な人間に見えたのでしょう。

マイノリティは人並みの幸福も許されないのか

母が薬物で逮捕された後、ダウン症のマルコは施設に収容されます。

彼は施設を脱走し家を探し彷徨っていたところをルディに保護されます。

ある日、大家にマルコの姿を見られたルディは家庭局にマルコが連れていかれる事を恐れ、恋人のポールの家にマルコをかくまってもらいます。

マルコを引き取りたいとポールに白状するルディですが、そこには様々な障壁がある事を知らされます。

但し、方法はありました。服役中のマルコの母に掛け合い、暫定的監護権を手にしたのです。

ルディの安アパートでは監護権に必要なマルコの部屋が確保できないため、ポールは彼らに自分の家に住むことを提案します。そして3人での幸福な生活が始まるのでした。

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学校に通い、ハロウィーンでは仮装し、クリスマスを祝う。愛とやさしさに溢れる幸福を謳歌する3人ですが、ポールの上司であるウィルソンのパーティに招待された事で状況は一変します。

ポールはこれまで恋人ルディの事を「従兄弟」と紹介していました。

理由は同性愛に差別的な時代において、マルコの監護権の有利とするため。そして自らの社会的立場を守るためでもありました。

しかしパーティで二人の親密な関係に疑問を持ったウィルソンは職場でポールを「ゲイ」であると言いふらし、クビにするのでした。

しかも「同性愛者に子育てなどできない」と、家庭局はマルコを再び施設に収容するのでした。

マイノリティである彼らには人並みの幸福すら許されないのかと憤りを感じます。

この頃、歌声を録音しデモテープを送っていたルディはあるクラブオーナーの目に留まり、シンガーとして舞台で歌うようになります。そこで彼はマルコへの愛を歌い続けるのでした。

マルコと権利を巡る闘い

仕事をクビになったことで、マルコとの生活を「単なる理想論だ」と嘆くポールですが、ルディに弁護士となった理由を引き合いに出され「今こそ世界を変える時」とゲイをカミングアウトします。

そしてマルコの監護権を取り戻すため、裁判で闘う事を決意します。

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裁判で焦点となるのは彼らの監護者としての責任能力ではなく、「同性愛者」であるという事でした。彼らを公的に証言する味方もおりましたが、同性愛について差別的な尋問を受け続け、訴えは退けられます。

ルディが思わず取り乱す場面もありましたが、二人の訴えは裁判長の心を動かし、再審が認められます。

再審の際には二人は難しい裁判を次々と成功させた黒人弁護士を立てます。

しかし、再審に登場したのは薬物中毒の母親でした。

相手方の弁護士は母親を仮出所させ、親権を主張させることで彼らの訴えをとうとう退けるのでした。

本作はお涙頂戴の安っぽい映画ではない

薬物中毒の母親の家に戻ったマルコはルディとマルコの家を探し彷徨います。

しかし、彼は3日間彷徨い続けた挙句、橋の下で死体で発見されたのでした。

就寝前はいつも二人にハッピーエンドの物語をせがんだマルコは冷たい橋の下で一人で死んでいったのです。

ポールはこの事実をタイプライターし、彼の死が取り上げられた小さな記事を同封して裁判関係者や元上司のウィルソンに送り付けます。

そしてルディが『I Shall Be Released』を歌うシーンが流れます。

マルコへの愛と無念。不条理への怒りと悲しみ、闘志が歌声から感じられます。

この歌以外にマルコの死についてルディの心情を表す描写はありませんが、このパフォーマンスが全てを物語っています。

蛇足のない演出、それを成立させるアラン・カミングの歌声は素晴らしいとしか言いようがありません。

この歌を聴きながら、裁判に負けた後の黒人弁護士とルディとポールの会話が思い出されました。

「正義はないのか?」

「それでも闘うんだ」

この作品はバッドエンドです。結局マイノリティである彼らの信じる正義は単なる理想論でした。

しかし、このような弱者の勇気、闘いが少しづつ世界を変えていく事を私たちは知っています。

今後もルディとポールは正義のために闘い続けるでしょう。

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